
こんにちは。Scivanです。
3月2日付で発表された米大手シンクタンクであるブルッキングス研究所のレポートが話題となっています。
最悪シナリオで世界で年間6,800万人の死亡者
全世界で最悪のケースで年間(初年度)6,834万人、日本では、年間(初年度)57万人が新型コロナウイルスで死亡するということのようです。かなりのインパクトですね。
こういったレポートはメディアが取り上げ結論だけが独り歩きしますし、シンクタンクということで「結論」にはもちろん世論や社会を動かしていく何かの意図があるわけです。少しレポートの中身を読んでみました。
シナリオ分析の「仮定」
レポートタイトルは「The Global Macroeconomic Impacts of COVID-19:Seven Scenarios:COVID-19が世界のマクロ経済に及ぼす影響:7つのシナリオ」です。
まず、「シナリオ分析」ですので、どういったシナリオをおいているのかから話が始まります。
このレポートでは、疫学的仮定としてまず最初に3つの要素を「仮定」して7つのシナリオを設定しています。その3つのパラメーターは以下のとおりです。
①Attack Rate for China:中国全人口のうち感染する割合
②Case-fatality Rate for China:中国感染者のうち死亡する割合
③Mortality Rate for China:中国全人口のうち死亡する割合
①「中国」での感染率、②「中国」での致死率をシナリオの要素として「仮定」しています。③は①×②で算出されますので厳密にはシナリオの要素ではないです。
このシナリオ要素の具体的中身は以下のとおりです。最悪のケースというシナリオ6(S06)では、中国の全人口のうち感染する割合が30%と仮定しています。すなわち中国の人口が14億人なので、4.2億人が感染するということですね。一番少ないS01でも1%なので、1,400万人が感染するという仮定です。
一方、現在中国の感染者数は3月13日時点で80,991人で、3月12日は80,980人で1日11人しか伸びていない状況です。現状は中国の人口14億人の0.006%しか感染していない計算になります。
すなわち、この中国の感染者数データを信じ、さらに現在の状況が続くとするのであれば、このレポートのどのシナリオにおける仮定にも現状はあてはまらないということになります。ただし、もちろん今後中国での再発など含めどうなるかは誰にもわかりません。

そもそも、なぜこんなギャップがでているのか。これはシナリオ分析の目的が違うからです。このシナリオ分析は「もし、感染割合、致死率がこうなったら、経済の影響はこうなります」というシナリオ分析なのです。もちろん「もしこうなったら」という前提部分もある程度理にかなった設定をするのが普通ですが(ここには若干意図的なものを感じますが)。
すなわち、このシナリオ分析は、感染者数、死亡者数等の前提のもと「経済への影響」を分析するものであって、本質的には「死亡者数がどうなるのか」を分析するレポートではありません。
各シナリオによる感染者数、死亡者数
このレポートでの各シナリオによる人口への影響を以下に示します。
このうちシナリオS06では初年度世界で6,834万人が死亡するということですね。さきほども書きましたが中国の人口の30%(4.2億人)が感染するという仮定をおいたシナリオの場合です。

レポートではさらに、労働力への影響について、影響が世界に広がるかなどのシナリオをおいて経済的な影響の評価をしているようです。ここは割愛しますので興味ある方は原文を読んでみてください。
シナリオ分析では結論を鵜呑みにせず、仮定を確認すべき
シナリオ分析は魔法のツールです、「こうなったら」「ああなるよ」ということを書いているのです。メディアなどは「ああなるよ」すなわち結論のところしか報道しません。それをある程度見越して、言いたいことの根拠を作るために「こうなったら」の仮定のところでシンクタンクは調整していることがあります。
メディアなどが報じている結論だけを鵜呑みにするのではなく、「こうなったら」の仮定のところをちゃんと確認をして、その仮定が本当に納得いくものかどうかを確認する必要があります。
ってことでそれでは!
“新型コロナウイルスの世界での死亡者数年間6,800万人は本当か?シナリオ分析解説” への1件のフィードバック